口説きの極意

 口説きの極意

口説きは小声で....

視聴覚障害の天才バイオリニスト 川畠成道氏は、ささやくような細い音色を出すことを信条としている。だから、川畠氏のリサイタルでは、聴衆たちは、息をひそめて耳をそばだてるようなムードになる。その静かな緊張感に満ちた場内に、天から舞い降りてくるような細い鋭い音色が流れ始めるのだ。
「大きな音は聞こえない。逆に、小さな音の方がよく聞こえるということがあると思うんです」
川畠氏はそう言っているが、彼のリサイタルでは、まさにその言葉通りのことが起こっているわけだ。

それは、『声』についても、まったく同じだろう。小声は、相手に聴こうとする真剣さと緊張感を要求する。
駅前でスピーカーでがなりたてる街頭演説は、ひとかたまりの騒音にしか聞こえず、何を言っているかを聞き取る気力を失せさせる。小声には、それとまったく逆の効果があるのだ。

「歴史は夜つくられる」といわれるように、口説きも夜おこなわれる。夜というのは、人間の神経が静まっている時間帯だから、小声の波がちょうどマッチする。その効果を生かすためには、BGMが低く抑えられて店か、まったく流れていない店を選ぶことが肝要だろう。

ただし、小声がベストとはいえ、それなりのメリハリは必要だ。前出の川畠氏のバイオリンも、小さな音で注意をひきつけて、突然、鋭く迫ったりする。そのように、肝心なところでは心持ち音量を上げる、というのも効果的なものだ。

怪談話をするときのコツを思い出してほしい。小声でムードをつくりあげ、クライマックスに至った段階で声を強める。すると、その声は、耳から心臓に突き刺さる。あの要領である。

耳元でささやく....

小声での口説きを覚えたら、次は耳元でのささやきです。ただし、耳元への接近というのは、物理的な距離はたかだか30cmでも、心理的には30mもの距離がある。だから、1日のうち一気に小声から耳元へ迫ったりしては、痴漢行為と見なされるだけだ。この耳元作戦は、せめて3回目のデートまでは実行を控えておいた方が賢明である。

さて、何故耳元のささやきが効果的なのか?
中国医学では、耳は多くのツボが集まる宝庫とされている。耳には、さまざまな内分泌器官につながるツボがあるほか、子宮、卵巣などの生殖器官につながるツボが埋め込まれているのだ。
また、西洋医学的な見地に立てば、耳の神経は延髄の迷走神経とつながり、その迷走神経は股間の迷走神経つながっているともいう。つまり、顔の両側から突き出た耳は、性的な急所にあらゆる刺激を伝えるアンテナだと思っていい。

耳元でささやきかけるとは、耳に息を吹きかけるということだ。この超接近戦においては、言葉の内容もさることながら、息という物理的な刺激が最大の武器となる。よって、できるだけ息をかけるようにしてささやきかけることを心掛ける。
とはいえ、たとえ3回目のデートと入っても、いきなり耳元に口をちかずけてハアッとやるのは、いくらなんでも唐突である。それには、何かのきっかけがほしい。

そこで、いっそのこと、子供の頃を思い出し、「内緒話なんだけどさ」と前置きしてみるのもいいだろう。そういう無邪気なムードがあれば、相手も「え、なあに」と笑いながら耳を差し出してくれるだろう。
この作戦を遂行するためには、あらかじめ「内緒話」のネタを練っておくべき。そこに話を持っていく流れまで作っておくとなおいい。そこまで戦術ずくめでやるのは不誠実だ、などと思ってはならないのである。

戦術を尽くすことは、決して不誠実ではない。心の奥底では平凡な人生を嫌っている女性心理にさまざまな演出を施す手助けをしてやることは、むしろ誠実な奉仕なのである。

Copyright(c), All rights reserved.